ECBA学習の手引き(2)
Mod2 ビジネスアナリシスの主要なコンセプト
目的:
- BABOK ® ガイドの内容、コンセプト、アイデアすべての基盤になっています。そして、ビジネスアナリストが、BABOK ® ガイドを理解し、使用して日常業務でビジネスアナリシスを実践する際に必要となる重要なアイデアを理解するための基礎となっています。
学習目標:
次のビジネスアナリシスのコンセプトを理解している。
- ビジネスアナリシスのコア・コンセプト・モデル™
- 主要な用語
- 要求分類のスキーム
- ステークホルダー
- 要求とデザイン
「知識」ではなく「理解している」なので、単に暗記するのではなく、しっかり理解して他の人に説明できるようになっていなければいけません。
ビジネスアナリシスのコア・コンセプト。
次の6つの用語をビジネスアナリシスのコア・コンセプトと言います。
- チェンジ: ニーズに対応して変える行為
- ニーズ:対処すべき問題または機会
- ソリューション:あるコンテキストにおいて、一つ以上のニーズを満たす具体的な方法
- ステークホルダー:チェンジ、ニーズ、ソリューションと関係を持つ個人またはグループ
- 価値:あるコンテキストにおける、ステークホルダーに対する値打ち、重要性、有用性
- コンテキスト:チェンジに影響を及ぼし、チェンジから影響を受ける状況。これによりチェンジを理解することができる周囲環境
このコア・コンセプトのそれぞれが、ビジネスアナリシスを実践する際の基本となる考えで、どのコンセプトも同等に必須のものです。コア・コンセプトのそれぞれが、他のコア・コンセプトにより定義され、それを完全に理解するには、すべてのコンセプトを理解しなければなりません。あるコンセプトが、他のコンセプトより重要になることも、他より大きな意味合いを持つこともありません。この6個のコア・コンセプトを利用すると、ビジネスアナリシスのタスクにより引き出し、分析し、管理していく情報の種類を理解するのに大変役に立ちます。
6つのコア・コンセプトを図解表現したものをビジネスアナリシス・コア・コンセプト・モデル(BACCM)といいます。
BABOKが他の知識体系と際立った特徴はこのコア・コンセプトにチェンジ(Transformationを含む)があることです。昨今、DXがブームになっていますが、まさにDXにビジネスアナリシスが有用なのはこのコア・コンセプトのチェンジがあることです。DXのための知識体系と言っても良いかもしれません。(少し言いすぎ)
主要な用語
6つのコア・コンセプトのつぎに重要な用語として位置づけられるのが次の主要な用語(8個)です。
- ビジネスアナリシス
- エンタープライズ
- 計画
- 組織
- デザイン
- ビジネスアナリシス情報
- 要求
- リスク
従来、ビジネスアナリシスは要求を最も重要視していましたが、この新しいBABOKでは「ニーズ」をコア・コンセプトにしています。すなわち「要求」より「ニーズ」の方がより重要という扱いです。それは「要求」になってからでは遅いからです。ステークホルダーの知らない、気が付いていないような「ニーズ」を満たすソリューションを提供することがステークホルダーにより大きな価値を提供できるようになる、という考え方(思想かもしれません)がベースにあるのです。
ですから、「要求」は「ニーズの理解しやすい表現」ですが、「ニーズを分かりやすく具体化したもの」と考えた方が良いかもしれません。ニーズが顕在化されたものが要求です。
同様に、「デザイン」という用語が出てきました。「ソリューションの理解しやすい表現」です。「ソリューション」は「ニーズ」とペアです。気が付いていない「ニーズ」を満たす「ソリューション」もまだ何を意味するのか分からない状態です。その分からない「ソリューション」を具体的に分かりやすくしたものが「デザイン」というわけです。手書きのスケッチレベルでもデザインです。決して詳細設計を意味するものではありません。
要求分類のスキーム
要求は次の4つに分類されます。ビジネス要求、ステークホルダー要求、ソリューション要求、移行要求です。
ビジネス要求
- なぜチェンジを開始したかを示すゴール、目標、成果の記述です。
エンタープライズ全体、ビジネス領域、特定のイニシアチブなどに適用できます。コンテキストの大きさが幾つもあり得ます。
ステークホルダー要求
- ビジネス要求を達成するために満たさなければならないステークホルダーのニーズを表現します。ビジネス要求とソリューション要求との間をつなぐ架け橋の役目を果たします。
- 日本では次のような業務上の要件:注文が来たら製品と納品書・請求書を届け、顧客は請求書に従って振込み、受注側はその入金を確認する。その業務のことをビジネスと言い、業務要件のことを「ビジネス要件」という場合がありますね。用語の定義の違いと言えばそれまでですが、BABOKで言う「ビジネス要求」とは大きく異なり、まだまだステークホルダー要求の部類ですので注意が必要です。
ソリューション要求と移行要求はおなじみだと思いますので割愛します。
ステークホルダー
各タスクの実行責任と説明責任はビジネスアナリストですが、お手伝いしてくれる人、影響を受ける人などのリストです。各タスクには誰がどのように支援してくれるのかが記載されています。
- 運用サポート
- エンド・ユーザー
- 規制者
- 業務領域の専門家
- 顧客
- サプライヤー
- 実装の専門家
- スポンサー
- テスト担当者
- ビジネスアナリスト
- プロジェクト・マネジャー
要求とデザイン
従来はビジネスアナリシスでは要求に注目し、設計には一切携わりませんでした。新しいビジネスアナリシスでは少しだけデザインにも責任を持つようになりました。その違いは微妙ですね。
- 要求はニーズを理解しやすく表現したもの:どのような価値を提供できるか(What kind of Value)
- デザインはソリューションを理解しやすく表現したもの:どのように価値を実現できるか(How value be realized)
ですから、デザインは何か具体的なもの(手書きのスケッチ、プロトタイプ、など)を見せることです。それを見たらステークホルダーは「だったらさらにこれがほしい」という新たな要求が出てくることが多いですね。これが重要です。こうして段階的に詳細な要求に進化していく過程を大事にしています。これを発展するとデザイン思考のプロセスになります。
コアコンセプトの「ニーズ」と「ソリューション」各々を理解しやすく表現した「要求」と「デザイン」の関係がBABOKの中核的な考え方であることを理解しましょう。
ニーズ → 要求 → デザイン → ソリューション
次回はいよいよ具体的な知識エリア「引き出しとコラボレーション」です。