ビジネスアーキテクトとビジネスアナリシス(4)

ビジネスアーキテクトとビジネスアナリシス(4)最終回

いよいよ最終回です。

 DX実現にBusiness Architectureとビジネスアナリシスどちらが重要なのでしょうか

  •  ビジネスアナリシスはチェンジ(トランスフォーメーション)を実現します。その意味では確かに不可欠(Must have)と言えます。しかしBusiness Architectureがある場合とそうでない場合では違いが出てきそうです。
    戦略アナリシスの「現状を分析する」タスクの要素にビジネスアーキテクチャがあることでわかるように、現状の記述にはBusiness Architectureがあった方が良い(Nice to Have)です。
    組織構造と組織文化、能力(ケイパビリティ)とプロセス、テクノロジーとインフラ、ポリシー、内部資産、外部環境要因などがありますから通常のチェンジの場合はBusiness Architectureがなくても十分可能です。しかし、エンタープライズレベル(すなわちDX)ではあった方が良いです。現状分析の時間の節約になりますし精度がより高くなります。
  •  逆に、Business Architectureがあればビジネスアナリシスが不要かと言えばそれは無理なことではないでしょうか。ビジネスニーズの定義はやはりビジネスアナリストの独壇場です。Business Architectはチェンジの責任を持っていないため、誰かがチェンジしなくてはいけません。それがビジネスアナリストであればベストなわけです。そしてBusiness ArchitectureはDXだけのためにあるわけではありません。経営層が企業統合、売却等を考える場合に最も重要な役割を果たします。

下図はBusiness Architectureの具体的な活動をバリューストリームとして表現したものです。

BAバリューストリーム_2024年3月8日

(画像クリックで拡大表示)

重要な活動は上図(バリューストリーム)の最初の部分(ステージ)の「ビジネス戦略の確立と洗練」です。

ここでは、ビジネス戦略を分析し、目標をさだめ、具体的なアクションを決めてます。これらはすべてエンタープライズレベルで行うことですから主に経営者の仕事です。Business Architectはその補佐役と思えばよいでしょう。この作業により経営者が正しく戦略(エンタープライズレベル)を確立できるようになります。Business Architectureがあれば経営者は正しい戦略を確立し洗練することができます。

そして、経営者はBusiness Architectureを企業合併、買収、売却、組織の合理化や統合への対処に活用できるようになります。デジタルトランスフォーメーション(エンタープライズレベルでの)もその一例です。例えば企業合併を実行するのはBusiness Architectではなく、主に経営者およびその関係者ということですから、あくまでBusiness Architectureを作成するのが主な仕事と言えます。Business Architectは変革をリードする人材ではありませんね。

極めて単純に言うとBusiness Architectureはエンタープライズレベルのビジネス階層の綺麗な「塗り絵」だと思えばよいのではないでしょうか。そこにはバリューストリームやケイパビリティマップなど、ビジネスに関する様々な要素がきれいに塗られています。経営者が、売却するのに該当する事業はどれか、相手企業と統合するべき自社の事業はどれか、などが一目瞭然にわかるようなビジネス領域の「塗り絵」と考えられます。

またデジタルトランスフォーメーションにおいては変革をリードする当事者(例えばビジネスアナリスト)に変革するべき事業はどこか、変革後のビジネスモデルはどのようなものなのかを一目瞭然に見ることができるビューとなります。ですからまさにNice to Haveです。しかし前述したようにこの「塗り絵」を完成させるのには多大な時間とコストを経営者は容認する必要があります。

そしてビジネスアナリストはビジネス階層の「塗り絵」とその下のデータ階層、アプリケーション階層、テクノロジー・インフラの階層を織り交ぜたエンタープライズ・アーキテクチャを考慮してデジタル・トランスフォーメーション(DX)を成功することができるようになります。

ですから、ビジネスアナリストから見ても、この「塗り絵」はあればありがたいものです。変革するべき対象(モノやデータ、組織構造・組織文化、ケイパビリティやプロセス、ポリシー/ルール)を特定するのに大きく役に立ちます。

日本のDXの現状

ここで日本のDXの現状を振り返ってみましょう。

デジタル化には次の3つのレベルが定義されています。

  •  レベル1:デジタイゼーション:作業のデジタル化(紙ではなくPDFでデータを受け渡すが業務プロセスは変わらない)
  •  レベル2:デジタライゼーション:業務プロセスのデジタル化:プロセスがデジタルでつながっていて、改善/改革され
    ている
  •  レベル3:デジタル・トランスフォーメーション:ビジネスモデルがデジタルで改革/変革されている。組織、制度、マインドセットも変革されている

日本では、DX、DXと言われていますが、そのほとんど(90%以上)はデジタイゼーションやデジタライゼーションまでで、ビジネスモデルまで変革する本当のDXには到達していない組織がほとんどのようです。(DX白書など)

Business Architectureが効果が出るのはレベル3のデジタル・トランスフォーメーションのレベルですね。

デジタル化のこの段階(成熟度という言い方が正しいかもしれません)ではじめてBusiness Architectureが意味を持つことになります。

前述したように、Business Architectureのスコープを単一のビジネス・ユニットに限定し、ケイパビリティ、バリューストリーム、情報などを関連するビジネス・ユニットにまで共有しないで可視化を行う、または、特定の課題(テーマ)、システム、または類似のスコープに限定されたトピックで行うと、全体最適にならずに部分最適になってしまいBusiness Architectureの効果を得ることができなくなってしまいます。サイロの中のBusiness Architectureにどれだけの価値があるでしょうか。

つまり、デジタイゼーションやデジタライゼーションのレベルではBusiness Architectureは効果が出ないのです。

 

最後に経産省/IPAが提唱しているビジネスアーキテクトはBIZBOKがグローバルに定義しているBusiness Architecture/Business Architectとは大きく異なることが分かります。

Bアーキテクト_IPA_2024年3月10日

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最初(第1回)に指摘したように、むしろビジネスアナリストの活動に近い内容と言えると思います。

特に

  • 本類型の主たる設計対象がビジネスモデルやビジネスプロセスを想定する

→ 明らかにビジネスアナリストの業務です。