ビジネスアナリシスのマインドセット(1)

ビジネスアナリシスのマインドセット(1)

あまり知られていませんが、重要なことにビジネスアナリシスのマインドセットがあります。実は大変重要なことで、
ビジネスアナリシス(BABOK)の根幹とも言えるものです。

V3_UC_Overview_2014年7月12日

まず、「基礎コンピテンシー」の行動特性があります。

行動特性は、ビジネスアナリストがステークホルダーからの信頼と尊敬を得られるようになるための行動特性をまとめたもので。知識やスキルではなく、実行(行動)できていなければ意味のないものです。ビジネスアナリストが信頼と尊敬を得るために必須です。特に、「倫理」と「信頼感」は不可欠です。

 【倫理】

ビジネスアナリストが倫理的であるためには公平さ、配慮、道徳的な振る舞いについての理解と集中が必要で、ビジネスアナリシスのアクティビティーと人間関係を通して行われます。また倫理的な行動には、提案したソリューションがすべてのステークホルダー・グループに及ぼす影響について考慮し、すべてのグループをできる限り公平に扱うように努力しなくてはいけません。特定のグループの便益だけを考慮するようなことをしてはいけません。
また、自身の能力や作業パフォーマンスについて誠実であり、失敗や間違いの責任を受け入れることについても誠実になりましょう。

【信頼感】

BABOKでは、信頼感の要因としてつぎのことを述べています。
「自信のある態度を一貫してとること。そのことにより、同僚やステークホルダーは、そのビジネスアナリストの姿勢に強さを感じる。誠実で率直な行動をとり、衝突や懸念があれば直ちに対応すること。そのことにより、同僚やステークホルダーは、そのビジネスアナリストの精神を誠実で裏表がないと感じる。」

次の問いはあなたの「信頼感」のチェックです。

  • ステークホルダーが、議論や意思決定の場にあなたを同席させてくれますか?
  • 難しいトピックや異論の多いトピックについてステークホルダーがあなたと話し合うことに前向きでしょうか?
  • あなたが問題が起こしたときにステークホルダーがあなたを責めないでかばってくれますか。

読者の皆様はステークホルダーから信頼されていますよね(念のため)。

【リーダーシップと影響力】

リーダーシップと影響力は、人の意欲を引き出し、共通のゴールと目標の達成を目指して協力して働くように促します。ステークホルダーごとの動機やニーズ、能力を把握し、それらを効果的に組み合わせられれば、組織の共通の目標を達成しやすくなります。

プロジェクトマネジャーの場合は人・モノ・カネの権限を持ちますが、ビジネスアナリストはステークホルダーに対して何も権限ありません。それでもリーダーシップを発揮する必要があります。ですから、ビジネスアナリストは、相手が自分の直属の部下であるかどうかにかかわりなく、リーダーシップと影響力を磨くよい機会と言えます。

どうしたら良いのでしょうか。

  • 例えば、望ましい未来の状態について明確で意欲的なビジョンが提示し、ビジョンを行動にうまく移行させるのはどうでしょうか。明確なビジョンを示すことは極めて重要です。
  • また、お互いの利益を理解できるように、ステークホルダーを感化することも有効です。
  • 他者に影響を与えるための個人の動機を超えてより広い目標を考慮するように、ステークホルダーに影響を与えたりしましょう。

【チームワーク】

リーダーシップと表裏一体の関係にあるのが「チームワーク」です。

  • ビジネスアナリストは、チームはどのように形成され、どのように機能するかを知りましょう。チームの力学を認識し、プロジェクトのさまざまな段階を踏んでチームが成長していく過程で、力学がどのように作用するかを知りましょう。
  • チームメートとの信頼を築き、良好に保つことは、チーム全体の一体感を高め、チームのパフォーマンスを最大限に引き出します。
  • しかし、チームにおいて衝突はよくあることです。適切に対処すれば、衝突の解消がチームにとってむしろメリットをもたらすこともあります。
  • そのためには、協働作業の環境が育まれ、適切に衝突が解消され、チーム・メンバー間の信頼を醸成しましょう。
  • そうすれば、共有されている高い達成基準に向けて、チーム内で支え合う雰囲気がでて、チームゴールに対する当事者意識を共有することができます。

リーダーが全責任を持つという専制型のリーダーシップではありません。リーダーもチームメンバーも同等に責任を共有する、という新しいリーダーシップです。責任を共有する(Shared Responsibility)リーダーシップとでも言うのでしょうか。
前述の信頼感が前提ですね。

ビジネスアナリストはステークホルダー(要求を引き出す相手)の上司ではありませんから専制型リーダーシップで「引き出し」がうまくできるわけありません。ステークホルダーが責任を共有してもらうようになってくれることが重要です。

ここで不可欠なのが、ステークホルダー・エンゲージメントという考え方です。

 「ステークホルダーのコラボレーションをマネジメントする」タスク

「エンゲージメント」に対応する日本語が見当たりません。有名なのは男女間でのエンゲージメントで「婚約」のことです。また、現在ウクライナでは戦争が起きています。痛ましいニュースに心が痛みます。そこではロシア軍とウクライナ軍が交戦していますが、この「交戦」も実はエンゲージメントと言います。喧嘩もエンゲージメント。2つの歯車が噛み合うこともエンゲージメントです。「婚約」と「交戦」が同じ「エンゲージメント」という言葉に、日本人の感覚としては(日本語にその概念がないため)理解しずらいです。

要するに、良い、悪いことには関係なく両者が真剣に取り組むこと(婚約も交戦も相手と真剣に取り組んでいる状態です)です。

知識エリア「引き出しとコラボレーション」の中の「ステークホルダーのコラボレーションをマネジメントする」タスクがあります。このタスクの目的は、「共通のゴールに向けて一緒に仕事をするように、ステークホルダーに奨励すること」です。

ステークホルダーのコラボレーションをマネジメントするとは、

  • 「ステークホルダーの前向きな反応を利用し、後ろ向きの反応をビジネスアナリストが和らげたり、回避したりすること」で、また、ステークホルダー・エンゲージメントがうまくいっている状態は、
  • 「自分の声が届いている、自分の意見が取り上げられている、自分の貢献が認められている」、と関係しているステークホルダーのすべてが感じている状態」です。
  • コラボレーションがうまくいっている関係においては、妨害や障害があったとしても自由に情報をやり取りする経路は確保され、問題解決や望ましい成果の達成のための共同の取り組みが推進されます。

最後にこのタスクのアウトプットを紹介します。

アウトプット:ステークホルダー・エンゲージメント:

  • ビジネスアナリシスのアクティビティーに進んで取り組み、必要があればビジネスアナリストとやり取りしようとするステークホルダーの自発的意思

最後の「取り組もうとする自発的な意思」がエンゲージメントという事になりますね。この「ステークホルダーのコラボレーションをマネジメントする」タスクはある意味、BABOK(R)の中で最も重要なタスクと言えるかもしれません。ステークホルダー・エンゲージメントをうまく高めることが、ビジネスアナリシスを成功に導く鍵、と言えます。

ビジネスアナリシスの活動は極めて人間的な要素が強いものです。決められたタスクを実行するだけのものではありません。

そして、その前提として、基礎コンピテンシーの「倫理」、「信頼感」、「リーダーシップと影響力」、「チームワーク」を忘れてはいけません。結果としてステークホルダー・エンゲージメントを得ることができます。

正に「人と人との絆(きずな)」と言えます。人と人との絆(きずな)がビジネスアナリシスには不可欠です。

ビジネスアナリシスは、望ましい成果を生み出すための人間主体の探索的で創造的な取り組みです。決められたタスクを単に実行するだけの活動ではありません。

少し長くなりました。続きは次回のお楽しみに。少しお待ちください。