ビジネスアナリシスのマインドセット(2)
最近発行された「ビジネスアナリシス標準」では、マインドセットが大幅に強化されましたのでご紹介します。
マインドセットとは
- 「マインドセット」とは、人がさまざまな状況にもたらす確立された一連の態度や習慣。
マインドセットがなぜ重要なのか?
- すべての状況は独自(ユニーク)であり、決まりきったビジネスアナリシスのアプローチといったものはありませんので、そのコンテキストに応じて、タスク、テクニック、ツールを様々な組み合わせで活用する必要があります。
- 特に最近は変化の激しいVUCAの時代なので、変化に惑わされずに、自信を持ってアプローチするには、習慣、態度、行動、実践において、正しいマインドセットをもつ必要があるわけです。
ビジネスアナリシス・マインドセットの源泉は次の2つです。
- ビジネスアナリシスの6つのコア・コンセプト
- 人々が持つ共通の価値観
まず、6つのビジネスアナリシスのコア・コンセプトがあります。BABOKの最重要な概念です。
- ニーズ
- チェンジ
- 価値
- ソリューション
- ステークホルダー
- コンテキスト
このコア・コンセプト・モデルについては下記URLのITmediaエグゼクティブのコラムで紹介していますので、そちらをご覧ください。
https://mag.executive.itmedia.co.jp/executive/articles/2404/16/news026.html
共通の価値観は次のとおりです。
- 敬意(人を信頼し尊重する)
- 勇気(変革への勇気)
- コラボレーション
- 継続的な学習と改善
- 顧客重視
- 価値の最大化
上記共通の価値観ですが、アジャイル分野では常識のものではないでしょうか。そうです、このマインとセットはビジネスアナリシスのコア・コンセプトとアジャイルでの価値観を組み合わせたものと考えられます。
このマインドセットを開発するために、次のことに焦点を当てたビジネスアナリシスの活動をすることが奨励されています。
- 価値: まずはビジネスアナリシスにより生み出される価値を考えましょう。
- 成果: そして、生み出される成果をどのように考えるか
- ビジネスアナリシス原則: (後述しますので少しお待ちください)
- ビジネスアナリシス・タスクへの取り組み方
- 基礎コンピテンシーの積極的な開発
→ 特に「倫理」「信頼感」「リーダーシップ」「チームワークと影響力」、「共感」、「システム思考」、「ファシリテーション」などです。 - いくつかの基本的なテクニック(特に引き出しのテクニック)を使用しましょう。そしてステークホルダー・エンゲージメントを得ることが重要です。
上記を実行することにより、ビジネスアナリストは次の能力が身に付きます。
- 価値提供に優先順位を付ける(価値と成果、「優先順位を付ける」タスクが有効です)
- 影響を受けるステークホルダーに共感する(基礎コンピテンシー「共感」を使いましょう)
- チェンジを起こすために仲間を作り協働する(ステークホルダー・エンゲージメントを高めます)
- コンテキストを評価し、現実に適応する(ビジネスアナリシス・コア・コンセプト)
- 常にステークホルダーから学ぶ(ステークホルダー・エンゲージメントが有効です)
- 知識の構築と共有を簡素化する
- フィードバックを反映して適応する
- 質の高い成果を生み出すよう努める(上記「成果」そのもの)
- 測定可能な価値を迅速に提供する
柔軟で順応性のあるマインドセットにより、次の様な活動が可能になります。
- 戦略に影響を与える
- 真の顧客に共感すること
- ビジネスプロセスを変革すること
- ビジネス・エコシステム内のステークホルダーに真剣に取り組んでもらうこと(エンゲージメント)
- 事実に基づくフィードバックと学習の推進
- 必要なチェンジを実装し、支援するためにテクノロジーを活用すること(DXにつながります)
ビジネスアナリシスの原則
次の原則は、効果的なマインドセットのために重要です。
- 全体を見る
- 顧客として考える
- 価値あるものは何かを決めるために分析する
- 例を使って真実を得る
- 実行可能なものは何かを理解する
- コラボレーションと継続的改善を促進する
もとはBABOKのアジャイル拡張版に記載されていたものですが、アジャイルのみならずビジネスアナリシス全般における原則に昇格しました。以下に解説です。
全体を見る
- – 全体像のコンテキストでニーズを分析し、チェンジが必要な理由を特定する。
- – 望ましい成果は、コンテキスト、ソリューション、およびステークホルダーを理解することによって生み出される。
顧客として考える
- 顧客体験上のニーズを理解して、そのニーズに対応するソリューションを構築する。
- チームは、顧客ニーズの概要把握から始め、それを分解して詳細な理解を得て、新たなソリューションを進化させるのに利用する。
自分が顧客だったら何が欲しいだろうかと、自問自答しましょう。
価値あるものは何かを決めるために分析する
- 提供される価値を最大化するために、作業を継続的に評価し、優先順位を付ける。
- チェンジにおける価値は、コンテキスト、ニーズ、ステークホルダー、ソリューションの可能性を理解することで生まれる。
例を使って真実を得る
- 実例を評価することは、ニーズと、ソリューションがそのニーズをどのように満たすかについて共通の理解を構築するために重要となる。
- 例を使用して、受け入れ基準を導き出し、ソリューションのデザインを支援し、ソリューションをテストするための基盤を提供することもできる。
具体的なものを見たり聞いたりすると、自分が欲しかったものが分かりますね。「あっ、これが欲しかった」。
実行可能なものは何かを理解する
- ニーズと、優先順位付けされたニーズを満たせるソリューションを継続的に分析することにより制約条件の下でソリューションを提供する方法を理解する。
- また、ソリューションが意図した価値を確実に提供するために、運用環境内での制約条件を考慮する必要がある。
実行可能ですからチェンジ可能なものが分かります。使い物になっているかどうかは重要です。
コラボレーションと継続的改善を促進する
- すべてのステークホルダーが継続的に価値に貢献する環境の構築を支援する。
- 継続的なフィードバックを使用して、提供価値を高めるソリューション自体と、開発プロセスを適応させる。
ムダを省く
- 付加価値のある活動とそうでない活動を特定する。
- ニーズを満たすことに貢献しない活動を排除する。
マインドセットの効用としてUNLOCK
DXを実現する際に大きな障壁となるのが、従来の常識や制約にとらわれた、いわゆるLOCKされた心理的状況です。これを打破するためにはこの心理的状況を解放(UNLOCK)する必要があります。ビジネスアナリストがLOCKされた状況ではDXを実現することは難しいでしょう。まずビジネスアナリストがUNLOCKされる必要があります。
上記の価値観やマインドセットがUNLOCKに大きく貢献するのではないでしょうか。
Lockされた状況 UNLOCKする価値観やマインドセット
- 目的を考えるのは自分の仕事ではない 戦略に影響を与える
- 組織では上司の意見に従うべき 勇気
- 予算がかかるものはやれない 勇気
- 残業しないわけには行けない 勇気
- 効率化しても残業代が減るからやりたくない 勇気
- 改善しても問題が出ると嫌だから提案しない 価値の最大化
- 言われたことをきちんとやることが自分の仕事 真の顧客への共感
- 他の部門との調整が必要なことはしない コラボレーション
- これはシステム会社の仕事ではなく事業会社 必要なチェンジを実装し、支援するためのテクノロジーの活用
(親会社)のやること
マインドセットをしっかり持つことの重要性を認識しましょう。