DXにおける業務プロセス変革(1)
業務プロセス変革は、DX推進の基盤であり、その成功は企業がデジタル時代において競争力を維持・向上するためのカギです。DXでビジネスモデルを変革するためには業務プロセスを変革することが不可欠です。変革したビジネスモデルを実行するということは、再設計した業務プロセスを実行することに外なりません。変革にあたっては、技術導入と並行して、プロセスそのものの再設計や組織文化の変革を一体的に進めることが求められます。そのために重要なのは次の4つがあります。
- プロセスの効率化
- プロセスのデジタル化
- プロセスの再構築
- 企業文化や組織改革との相乗効果
プロセスの効率化:
まず、DXの初期段階では現行のプロセスの無駄やボトルネックを削減し、運用コストを下げることが重要です。これにより、企業全体のリソースが最適化され、イノベーションに振り向ける余地が生まれます。
プロセスのデジタル化:
業務プロセスをデジタル化することで、リアルタイムなデータ収集や分析が可能になります。これにより、意思決定の質を向上させ、新たな価値を創出する基盤が整います。
プロセスの再構築(リエンジニアリング:これがプロセス変革):
さらに単なる効率化にとどまらず、デジタル技術を活用して、従来のビジネスプロセスを根本的に見直し、新たな付加価値を提供するプロセスを設計することです。
企業文化や組織改革との相乗効果:
プロセス変革は、従業員の働き方や意識の変革と一体的に進める必要があります。デジタルツールを取り入れるだけでなく、社員がその利点を理解し、活用する文化を醸成することが重要です。
まとめると、業務プロセス変革は、DX推進の基盤であり、その成功は企業がデジタル時代において競争力を維持・向上するためのカギです。変革にあたっては、技術導入と並行して、プロセスそのものの再設計や組織文化の変革を一体的に進めることまでが求められます。
上記はまさに「言うに易し行うに難し」ですが、それを効率よく実行するためのフレームワークを紹介します。
それには業務プロセスの参照モデルを使用することです。
その例としてAPQC(American Productivity & Quality Center)が提供するPCF(Process Classification Framework)を紹介します。
PCFは、業務プロセスの標準分類フレームワークで、業種や企業規模に関係なく利用できるグローバル標準のプロセス体系を提供しています。このフレームワークは、組織の全体的なプロセスを統一的かつ包括的に把握するために設計されており、以下の特徴があります:
- 汎用性:さまざまな業界・業種に適応可能なテンプレート。
- 分解度の詳細さ:主要業務プロセスを階層的に細分化し、具体的なタスクレベル(レベル5)まで明示。
- ベンチマーキング対応:他社との比較やパフォーマンス評価に利用可能。(主に米国での話、日本企業への適用は未確認)
PCFの全体像をご覧ください。
全部で13のプロセス・カテゴリーがあります。
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13のプロセス・カテゴリーは次の二つに分類されています。
- オペレーティング・プロセス:「1.0ビジョンと戦略を策定する」「2.0製品とサービスを開発し管理する」 等、直接顧客に価値を提供するプロセス・カテゴリーです。
- マネジメントと支援プロセス:いわゆるバックオフィスで、人事、経理、IT、設備など直接顧客に提供するのではなく間接的に価値提供を支援するプロセス・カテゴリーです。
ちょうどマイケルポーターのバリューチェーンを拡張したものと考えればよいと思います。
APQCのPCFは、DXの基盤となる業務プロセス変革を体系的に進めるための強力なツールです。特に以下の点が有効です:
- 業務プロセスの「可視化」
- 業務プロセスの「標準化」
- ベンチマーキングとパフォーマンス改善
- デジタル技術導入の「指針」
- プロセス再設計(リエンジニアリング)
各々詳細に解説します。
1. 業務プロセスの「可視化」
PCFは、組織全体の業務を網羅的に分類するための体系を提供します。
DX推進の第一歩である「現状の業務プロセスの可視化」において、PCFをベースにプロセスをマッピングすることで、抜け漏れや重複を防ぐことができます。プロセス分解がMECEになっています。。
メリット:
- 既存プロセスの全貌を把握しやすい:業務(企業)全体の鳥観図として最適です。
- 課題があるプロセスを特定しやすい:より上位プロセスで課題を特定し、その下位プロセスでの問題解決に有効です。
- いきなり担当者レベルでプロセスを改善してもそれが経営課題につながることはまずありえませんので、上位プロセスでの課題の特定が先決です。
2. 業務プロセスの「標準化」:特に日本において最も有効
DXを進める際、部門や地域ごとにバラバラなプロセスを標準化する必要があります。
PCFは、統一されたプロセス分類を提供するため、社内のプロセス整備や共通基盤の確立に役立ちます。日本の伝統的な現場の創意工夫による部分最適を改善することができます。例えば同じ業務でも東京と大阪では担当者レベルでプロセスが異なる場合、それを統一したプロセスにしてシステム化(RPA)するなど。
メリット:
- 部門間での連携が容易になるため、RPAへの過剰投資を抑制できる。
- グローバル企業や多国籍企業における標準化が進むのでERPのアドオン、カスタマイズが防げる。
PCFを活用することで、DX推進をより効率的かつ効果的に進めることが可能です。特に、複雑な業務構造を持つ企業や、多国籍企業においてはその価値が一層高まります。
3. パフォーマンス改善とベンチマーキング
PCFは、重要プロセスのKPIを提供するのみならず、他の企業とのベンチマーキング・データも提供します。
APQCが蓄積している豊富なデータベースを活用することで、自社のプロセスが業界平均やベストプラクティスと比較してどの程度効率的かを測定可能です。特に米国企業のデータが豊富ですが、残念ながら日本企業のデータは期待できません。
メリット:
- プロセス改善の具体的な目標設定が可能です。
- 米国業界での自社の立ち位置を理解できる。
4. デジタル技術導入の「指針」
PCFを活用して業務プロセスを階層化し、デジタル化すべき領域を明確にします。たとえば、顧客管理プロセスでCRMツールを導入する場合、PCFの「顧客サービスを管理する」カテゴリーを参照して、具体的な導入範囲を定義できます。(下図参照ください)
メリット:
- DXの効果を最大化する領域を明確化できる。
- 投資対効果(ROI)が高いプロセスに優先的にフォーカスできる。
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「顧客サービスを管理する」カテゴリーの下の「顧客サービスの連絡先を計画し、管理する」プロセス・グループとその下位の5つのプロセスです。このようにすべてのプロセスは階層化されています。
- プロセス・カテゴリー:「6.0 顧客サービスを管理する」
- プロセス・グループ:「6.2顧客サービスの連絡先を計画し、管理する」
- プロセス:「6.2.1 顧客サービスの要員業務を計画および管理する」
「6.2.2 顧客サービスの問題、リクエスト、および問い合わせを管理する」
「6.2.3 顧客の苦情を管理する」
「6.2.4 返品を処理する」
「6.2.5 インシデントとリスクを規制機関に報告する」 - アクティビティー:未表示
- タスク:未表示
CRMシステムをどの範囲で導入するかを考えるのに役立ちます。またこのPCFをサポートしているCRMシステムもあるかもしれません。
5. プロセス再設計(リエンジニアリング):ここが本当のDXです。
ビジネスモデル変革によって、PCFを基に既存プロセスをゼロベースで見直し、デジタル技術を組み込んだ新しいプロセスを設計することが可能です。ここが本当のDXです。
たとえば、ツールやAIを導入して自動化すべきタスクをプロセス分類ごとに整理できます。
メリット:
- プロセス変革のフレームワークとして活用できる。
- 業務効率化と顧客体験向上を両立できる。
長くなりましたので、次回は実際の活用場面と具体例を解説する予定です。
特定業界(損保業界)でのPCFもご紹介します。