ビジネスプロセス・マニフェスト 3

原則(続き)

プロセス名に関して:理想的なビジネスプロセス名はあいまいさがなく、ビジネス上親しみがもて、一貫して使用される。

  • ビジネスプロセスはただ一つの名前を持つべきである。
  • ビジネスプロセス名はアクションを反映する能動態で記述するべきであり受動態で記述するべきではない。
  • ビジネスプロセス名は、そのビジネスプロセスの意図するビジネス結果を明確に表現するべきである。
  • ビジネスプロセス名は、内外のビジネス・ステークホルダーによって明白に一貫して理解されなければならない。
  • すべてのビジネスプロセス名とすべての分割レベルにおけるアクティビティ名の記述は、ただ一つだけの命名方法を使用するべきである。
  • ビジネスプロセス名は、どこでそれが実行されるのか、誰が何を使って実行するのか、またはどのように実行するのかを記述するべきではない。

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【解説】
プロセス名の付け方の注意事項です。最初の項は明確です。同じプロセスで複数の名前を持つべきではありません。

2項目はうっかりすると間違えますので注意しましょう。動詞または動詞句を用い、受動態ではなく能動態で記述します。そういえば、ビジネスアナリシスの知識体系BABOK(R)も、すべてのタスク名はアクションを示す動詞で記述されています。また、プロジェクトマネジメントのPMBOK(R)も原文(英語版)は全てのプロセス名が動詞表現です。ただ、PMBOKの日本語訳はなぜか、名詞句(体言止め)になっています。

3項目はさらに一歩踏み込んで、ビジネス結果(アウトプット)まで表現することを推奨しています。例えば、「新製品を開発する」プロセスのビジネス結果は「新製品」ですね。このプロセスのアウトプット、すなわちビジネス結果が明確です。BABOK(R)の多くのタスクも同様です。「ビジネスニーズを定義する」タスクのアウトプットは「ビジネスニーズ」。という具合です。

4項目、は問題ないと思います。

5項目は命名法ですが、複数の命名法を用いると誤解されやすくなるので避けましょう。

最後の項ですが、プロセス名には場所、人、モノ、実行方法(人的作業、IT)を入れるべきではありません。プロセスを記述したのちに、どこで、誰が何を使って実行するのか、また人的作業で実行するのか、ITで自動化するのかを決めるのです。それにはいくつかのトレードオフや予算もあり、十分な吟味が必要です。

プロセスを見える化することと、

 

モデルに関して:ビジネスプロセス・モデルは多角的な視点(パースペクティブ)、表記法(ノーテーション)、図(ダイアグラム)を可能にする。

  • ビジネスプロセス・モデルは、ビジネスプロセスとその環境について記述するのに必要なすべての情報を含む。
  • ビジネスプロセス図は、特定のコミュニティーによって要求されるビジネスプロセス・モデル上の視点(パースペクティブ)を提供する。
  • 表記法は、そのビジネスプロセス・モデル上の特定の視点を表現し、伝えるために使用する構築物のセットである。表記法はビジネスプロセス・モデルではない。
  • モデルの特定の側面と対話したり実行する個人は、自分の目的に適している表記法で図(ダイアグラム)を見ることができるべきである。
  • ビジネスプロセスおよび任意の分割レベルにおけるその構成要素のアクティビティは、すべて共通のテンプレートを使用して記述されるべきである。

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【解説】
いかなるビジネスプロセスも外部環境と内部環境があります。それが記述できなければいけません。そして、同じビジネスプロセスでも、視点(パースペクティブ)の異なる複数の表記方法があります。どの表記方法を用いるかは求める視点を最適に表現できる表記方法を使えばよいのです。バリューチェーンを表現するのに、箱(アクティビティ)と矢印(フロー)を用いたプロセスのフローモデルを使っても構いません。また、プロセスのライフサイクルモデル(例えばバリューストリームマップ)を使っても構いません。自分たちに都合の良い視点(パースペクティブ)を表現してくれるモデルを使います。そして、第4項目にあるように、プロセスを実行する個人は自分の目的に適している表記方法で図(ダイアグラム)が見れて、そのプロセスを改善できることが重要です。

[図をクリックで拡大表示]

最後の項では、ビジネスプロセスを下位に分割したときのアクティビティは上位プロセスを表現するテンプレートと同じものを使うことを推奨しています。つまり、上位プロセスがBPMNで記述してあれば、下位のアクティビティもBPMNにしましょう。上位プロセスがDFDなら下位プロセスもDFDで、ということです。

 

ユニークさに関して:ビジネスプロセスは、他の組織資産を利用するユニークな組織資産である。

  • 組織の他の資産にはビジネスプロセスとは異なる特性がある。
  • ビジネス・イベントはビジネスプロセスとそのアクティビティを開始する、または終了する。
  • ビジネスポリシーとビジネスルールはビジネスプロセスを制御する。
  • 人材、テクノロジーおよび物的資産は、ビジネスプロセスの実行を可能にする。
  • 組織は複数のビジネスプロセスのセットを持つべきではない。組織の中のプロセス・モデルはすべて単一のビジネスプロセスのセットに統合されるべきである。

【解説】
他の組織資産として、ビジネスイベント、ビジネスポリシーとルール、人材/テクノロジー/物がありますが、ビジネスプロセスはそれらを活用するという意味でユニークな組織資産という事です。

前項の視点を見てください。イベント、ルールは視点でもありました。イベントモデルとしてイベントをモデル化したものが一つの組織資産です。同様に組織のビジネスポリシーとルールを体系化したものを総合ルールブックマネジメントと言い、これも立派な組織資産です(ただ日本では総合ルールブックマネジメントを徹底している組織はまだわずかなようです)。
ビジネスプロセスの実行を可能にするのは人的資産やIT資産です(リソースに関して、を参照ください)。
このように、ビジネスプロセスはそれ自体が組織資産ですが、その中で他の組織資産も活用し、かつ実行を可能にするのも他の組織資産(人材、IT)という、ユニークな点に注目してください。