【解説】 スクラム知識体系(SBOK™)の誕生
最近、SCRUMstudyと称するスクラム/アジャイルの認定団体から「スクラム知識体系(SBOK)ガイド」が出版されました(2013年)。このSCRUMstudyをバックアップしているのは、オラクル、シスコ、LinkedInなどに資金提供したシリコンバレー最大のベンチャーキャピタル – セコイア·キャピタルです。
スクラムやアジャイルにはいくつかの認定団体があります。SCRUM Alliance のCSM(Certified Scrum Master)が有名です。すでに数万人のスクラムマスターが認定されています。歴史が古いのはAgile Allianceで、IIBAと共同でアジャイルBABOK(Agile Extention to the BABOK Guide)を作成しています。
Scrum.orgという認定団体はScrumの考案者の一人Ken Schwaberにより設立されたもので、多くのトレーニングコースや認定もしています。Ken SchwaberとJeff Sutherlandによるスクラムガイド™はとくに有名で、世界30か国語に翻訳されています。
スクラムガイド™のURLです。:https://www.scrum.org/Scrum-Guide
30か国分ありますから、「日の丸」の日本語をクリックしてください。日本語版がダウンロードできます。
SCRUMstudyの「スクラム知識体系(SBOK™)ガイド」がグローバルスタンダードになるかどうかは、現時点では不明ですが、業界初の知識体系(Body Of Knowledge)ということなので、興味があります。内容を簡単に解説いたします。
内容は大きく3部構成です。
- 原則
- アスペクト(側面)
- プロセス
スクラム原則は、スクラム・フレームワークを適用するための中核となるガイドライン。すべてのスクラム・プロジェクトの中で必ず使用されるべきもので、下記6つの原則があります。
【画像のクリックで拡大表示】
- 経験的プロセス制御- この原則は、透明性、検査、および適応の3つの主要なアイデアに基づいてスクラムの核となる理念を強調する。
- 自己組織 -この原則は次のような今日の労働者に注目する。彼らは自主的に組織された場合著しくより大きな価値を届け、よりよいチームの支持を得てオーナーシップを共有する結果をもたらす。そして、成長をさらに助長するような革新的・創造的な環境に寄与する。
- 協働 -この原則は協働作業に関係する3コアとなる次の3つの次元に注目する:意識、明瞭性および適切さ。さらに、それは、最大の価値を伝えるために相互作用し対話するチームとの共有される価値創造プロセスとしてプロジェクト管理を主張する。
- 価値を基にした優先順位付け -この原則は、最大のビジネス価値を届けるスクラムの焦点を強調する。それはプロジェクトの初期からスタートし、プロジェクト全体にわたって継続する。
- タイムボクシング -この原則は、時間がどのようにスクラム中の制約と考えられるか、および有効に企画策定と実行を管理するのを支援するために使用されるかを説明する。スクラム中のタイムボクシングの要素はスプリント、デイリーのスタンドアップ、スプリント計画ミーティングおよびスプリントレビューミーティングを含む。
- 反復開発 -この原則は反復開発を定義し、どのようによりよく変更を管理し、顧客を満足させる製品を構築するかを明確にする。さらに、それは、反復開発と関係するプロダクト・オーナーおよび組織の責任を描写する。
スクラムアスペクツ(側面)は次の5つです。
- スクラム組織(役割)
- ビジネスの正当化
- 品質
- 変更
- リスク
例えば、スクラム組織(役割)は左図のような組織です。
【画像のクリックで拡大表示】
コアの役割として、お馴染みの
- プロダクトオーナー
- スクラムマスター
- スクラムチームです。
コアではありませんが、重要なノンコアの役割として次の5つの役割があります。
- ステークホルダー
- スクラム・ガイダンス・ボディ
- ベンダー
- チーフ・プロダクト・オーナー
- チーフ・スクラム・マスター
スクラムプロセスです。下記の5つのフェーズと19のプロセスからなります。
スクラムはプロセスより「人」を大事にするはずなのですが、このSBOK™ではプロセスがしっかり定義されています。ただし、PMBOK(第4版)の42個のプロセス、BABOKの32個のタスクに比べるとその数はわずか19個と控えめです。 また、5つのフェーズもウォーターフォール的であまりアジャイルらしく見えないのは筆者の偏見でしょうか。
【画像のクリックで拡大表示】
前述のように、このSBOK™がグローバルスタンダードとして認められるかはまだ未知数です。また、内容的にもKen SchwaberとJeff Sutherlandのスクラムガイド™を拡張している程度で、特に目新しいものは無いようにも見えますので、本当にデファクトスタンダードとして認知されるかどうかわかりません。
左図の強調点で、従来のプロジェクトマネジメントでは「プロセス」に対してスクラムでは「人」となっていますが、SBOK™ではプロセスを重要な要素としているのは大きな矛盾を感じる読者もいらっしゃるのではないでしょうか。
そんなわけで、このスクラム知識体系(SBOK™)の将来が大変興味深いものです。
【画像のクリックで拡大表示】