知識エリア【引き出しとコラボレーション】
この知識エリアはビジネス・アナリストが行う次のタスクについて記述します。引き出しとコラボレーションの活動の準備、それらを主導するための活動、その結果を確認する活動、それらの活動から得られたビジネスアナリシス情報をまとめてステークホルダーに伝達する活動。そしてステークホルダーとのコラボレーションをマネジメントする活動です。
最も大きな変更は、知識エリアのタイトルが「引き出し」から「引き出しとコラボレーション」に変わったことです。タイトルだけでなく、その内容も大きく変わっています。以下の引用をご覧ください。
- 引き出しは、ステークホルダーあるいはその他から情報を誘い出すこと。コラボレーションは、共通のゴールに向けて2人以上が共同で行う行為である。引き出しは、要求とデザイン情報を発見するための主要なパスで、ステークホルダーとの直接対話、トピックの研究、実験を含むかもしれない。引き出しとコラボレーションは、ビジネスアナリストがすべてのタイプのビジネスアナリシス情報の相互理解について、どのように識別し合意に達するかを記述する。
- ビジネスアナリシス情報は多くのビジネスアナリシス活動およびアウトプットの根拠となるので、情報は完全で、明確で、正確で、一貫していなければならない。ビジネス・アナリストは品質目標を達成するのを支援するために、引き出しとコラボレーションのテクニックを活用する。
- 引き出しとコラボレーションは計画されても、計画されなくても、あるいはその両方でもできる。調査、ワークショップおよび(または)実験などの計画された引き出し活動は、前もって構造化し体系化できる。計画されない活動は、最後の瞬間のコラボレーションあるいは会話のように、瞬間的に予告なく発生する。計画されない活動から得たビジネスアナリシス情報は、計画される活動によって、より深い調査が必要になるかもしれない。ビジネスアナリストは、計画されない相互作用がどんなものかを想定すれば、起こりそうな相互作用をリハーサルまたは実際に試せるので、計画されない活動の準備をすることができる。
- ビジネスアナリシス情報の引き出しは、分離または独立した活動ではない。典型的には、ステークホルダーとの対話を含むあらゆるタスクを実行している間、およびビジネスアナリストが独立した分析作業を行なっている間、情報は引き出される。引き出しは、ギャップを埋めるための詳細な情報、あるいは理解を増加させるために、さらなる引き出しを誘うかもしれない。
大変興味深い記述になりました。計画されない引き出しやコラボレーションとはどんなものでしょうか。V2では「引き出し(Elicitation)」という表現で、ステークホルダーが表面に言い表さない潜在的な要求(ニーズ)を引き出すことが大切だ、という論調だったのですが、このバージョン3ではさらに、コラボレーション(協働)や計画されない引き出し・コラボレーションとまで言うようになりました。それだけ奥の深いニーズ、価値を見出そうとする意図が明確です。プロジェクトにおけるソリューションへの要求を明確にするのみならず、そもそものニーズ、価値を創出するプロセス、さらにイノベーションを発生させるプロセスにまで踏み込んでいることになります。これがバージョン3の真骨頂の一つと言えるのではないでしょうか。
それでは、タスクの変更点です。
V2の「引き出しの結果を文書化する」タスクがなくなり、V3では新たに2つのタスクが追加されました。
- ・ビジネスアナリシス情報を伝達する
(V2の知識エリア「要求のマネジメントとコミュニケーション」の「要求を伝達するタスク」)に該当します。 - ・ステークホルダーとのコラボレーションをマネジメントする
(これは全く新しく加わったタスクです)
[図のクリックで拡大表示]
つづいて、タスクの概要です。
【引き出しの準備をする】
- ステークホルダーとうまく約束を取り付けるためには、彼らが提供に値する情報を持っていて、かつ彼らが行なう活動の性質を確実に理解し、そして活動の結果に関する一連の期待のセットを確実に共有するような準備が不可欠である。準備はさらに研究ソースを識別することや、プロセス変革が改善に実際に帰着するかどうか確かめるために実験を行なう準備をすることまで含むかもしれない。
【引き出しを主導する】
- ニーズを理解し、かつそれらのニーズを満たす潜在的なデザインおよびソリューションを識別するために、ステークホルダーと行なう活動について記述する。この作業はさらに実際の研究あるいは実験の主導を含むかもしれない。
【引き出しの結果を確認する】
- ステイクホルダーが引き出しの結果についての共有される理解を持っていること、引き出された情報は適切に記録されること、また、ビジネスアナリストが引き出し活動から情報を求めることを確実にする。このタスクはさらに不整合またはギャップを見つけるために、受け取られた情報を他の情報と比較することも含む。
【ビジネスアナリシス情報を伝達する】
- 正しい用語およびコンセプトを使用し、有用な形式で、必要な時に、必要な情報をステイクホルダーに提供する。
【ステークホルダーとのコラボレーションをマネジメントする】
- 全面的にビジネスアナリシスのプロセスにステークホルダーを取り込み、かつ彼らに必要とする結果を伝えることができることを確実にするために、ステークホルダーと一緒に仕事をする。
タスクの解説を見ると、もはや従来の「引き出し」ではないことに気が付きます。
タスクの名称は従来のバージョン2のタスク名を踏襲していますが、その内容は大きく異なります。例えば「引き出しの準備をする」タスクは、引き出しのみならず、コラボレーションの準備を周到に行うことがわかります。「研究ソース」や「実験を行う準備」など耳慣れない用語が出てきます。
「引き出しを主導する」タスクも同様です。「ステークホルダーと行う活動」すなわちコラボレーションを意味します。
コラボレーションしながらニーズ、要求、デザインを創出していくことがわかります。タスクの詳細までは解説できませんが、いくつかのキーワードを紹介します。
- コラボラティブ(協働的)・テクニック
- リサーチ(研究的)テクニック
- 実験
- 計画されない引き出し
- ファシリテートされない引き出し
- 計画されない・インフォーマルな伝達
前述した、ニーズや価値を創出するプロセスと言うのにふさわしいキーワードが読み取れるのではないでしょうか。イノベーションの源泉がここにあると思います。
この知識エリアにおけるBAコアコンセプトモデルです。
コア・コンセプト | 「引き出しとコラボレーション」においてビジネスアナリストは; |
変革(Change):組織的に制御された変革(トランスフォーメーション) | 変革の特性を完全に識別するために、様々な引き出しのテクニックを使用する。変革はそれ自身、適切な引き出しとコラボレーションのタイプとその範囲を決定するかもしれない。 |
ニーズ:ステークホルダーにとって潜在的価値のある問題、機会、または制約 | ニーズとそれを支援するビジネスアナリシス情報を引き出し、確認し、伝達する。引き出しが反復しながらインクリメントすれば、ニーズへの理解も時間とともに深まるかもしれない。 |
ソリューション:コンテキストにおいてニーズを満たす具体的な方法 | ソリューションに必要な特性、または望ましい特性を引き出し、確認し、伝達する |
価値:コンテキストにおいてステークホルダーにとって重要なもの | ステークホルダーとコラボレーションすることにより、引き出しによって提供される情報の相対的価値を評価し、その価値を確認し伝達する様々なテクニックを適用する。 |
ステークホルダー:変革又はソリューションと関係を持つグループまたは個人 | ビジネスアナリシスの作業に参加するステークホルダーとのコラボレーションを管理する。すべてのステークホルダーは変革中に異なる役割に、および異なる時に参加してもよい。 |
コンテキスト:環境のなかで変革を包含する部分 | 変革に影響するかもしれないコンテキストに関するビジネスアナリシス情報を識別するために、様々な引き出しのテクニックを適用する |
知識エリア【引き出しとコラボレーション】のデータフロー図です。
タスクのインプットとアウトプットの関係に注目してください。
「引き出しを準備する」タスクでは、計画されない引き出しも重要な要素です。アウトプットの、「引き出しのロジスティクス」はバージョン2ではありませんでしたが、日本でおなじみの「場」もその重要な要素です。
[図のクリックで拡大表示]
緑色の吹き出しは「ガイドラインとツール」です。ガイドラインはバージョン2ではインプットとして扱われていました。新しいバージョンではインプットはアウトプットに変換されるものだけに絞られて、参照されるだけで変換されないものはガイドラインという表現になりました。「組織のプロセス資産」がその典型的です。
注意:上図はBABOK®バージョン3 パブリックレビュー版の情報をもとに作成してあります。今後、正式版では変更される可能性があるのでご注意ください。