BABOK®ガイド V3(パブリックレビュー版) 第9章 基礎コンピテンシ(ビジネス知識)

9.3 ビジネス知識

  • ビジネス知識はビジネス、業界、組織、ソリューションおよび方法論においてビジネスアナリストが有効に行なうために必要である。
  • ビジネスアナリストは、ビジネス知識によって変革イニシアチブまたはニーズに関係する状況の構造、便益そして価値の全体を管理する概念をよりよく理解することができる。
  • ビジネス知識の基礎コンピテンシは以下の通り:
    -ビジネス感覚
    -業界知識
    -組織の知識
    -方法論の知識
    -ソリューションの知識

 

今週は「基礎コンピテンシ:ビジネス知識」のなかから、3つの基礎コンピテンシ、「ビジネス感覚」「業界の知識」そして「方法論の知識」を解説します。

「ビジネス感覚」はビジネスアナリストにとって最も重要なコンピテンシかもしれません。ビジネス感覚の乏しい人にビジネスアナリシスを実践することはできません。特にバージョン3はビジネスの価値を実現することに責任を持つことになりましたので、単に要求定義を扱うだけではなく、本当にビジネスに役に立つかという観点がより重要になりました。その具体的な基礎コンピテンシとして、まさに「ビジネス感覚」が重要になってきました。

次の「業界の知識」も同様です。これはバージョン2でもありましたが、ビジネスアナリストがシステムアナリストと異なる最大のポイントです。

「方法論の知識」は 残念ながら日本が最も遅れている知識の一つです。この前提は、組織がビジネスアナリシスの方法論を持っていることです。日本の組織は一刻も早く、自社のビジネスアナリシスの方法論を確立するべきです。具体的にはバージョン3のパースペクティブ(観点)の、BPMやビジネスアーキテクチャの方法論が参考になります。パースペクティブ(観点)に関しては後日の解説までお待ちください。

それでは以下、3つの基礎コンピテンシ「ビジネス感覚」「業界の知識」「方法論の知識」の試訳です。

 

9.3.1 ビジネス感覚

.1 目的

  • ビジネスアナリシスは、ソリューションがレビューされることを確実に考慮するために、ビジネスの基本およびベストプラクティスについて理解しなければならない。

.2 概説

  • ビジネス感覚は、ビジネスニーズを他の状況から得られた経験と知識を使用して理解する能力である。組織は、しばしば法的に規定された要求、財務、ロジスティクス、セールス、マーケティング、サプライチェーン・マネジメント、人的資源および技術など、類似の慣習を共有する。ビジネス感覚は、異なる状況において上記共通性に基づいた知識を理解し適用する能力である。
  • 実現可能なソリューションを求める場合、他の組織がどのようにチャレンジを解決したかを理解することは役に立つかもしれない。過去に遭遇した経験またはチャレンジに気づけば、ビジネスアナリストがどの情報が現状に適用可能なのかを決めるのを助けるかもしれない。実践に差が出るとしたら、業界、場所、組織の規模、文化および組織の成熟度などが要因である。

  .3 有効性の判断基準

ビジネス感覚の判断基準は以下の通り:

  • 潜在的な制限または機会を認識する能力を示している
  • 状況の変更がイニシアチブか努力の方向の変革を要求するかもしれないことを認識する能力を示している
  • 含まれるリスクの理解と、リスク管理における意思決定能力
  • コストを減少し利益を増加する機会を認識する能力を示している
  • 状況における新たな変革に対応する利用可能な選択肢を理解している

 

 9.3.2 業界の知識

.1 目的

  • 業界知識は、ビジネスアナリストに業界における最新の実践と活動、および業界横断的に類似するプロセスついての理解を供給する。

 .2 概説

  • 業界知識は最新の傾向、市場の力、市場ドライバー、キー・プロセス、サービス、製品、定義、顧客セグメント、供給、プラクティス、規則、その他の要因についての理解である。それらはみな、業界と関連業界に影響を与え、また影響を受ける。
  •  業界知識はさらに、市場と人的資源に関して会社は業界内でどのように位置づけられるのか、またインパクトと依存性の理解である。

特別の業界、競争者あるいは会社に関する知識を開発する場合、次の質問がガイダンスを提供する:

  • 業界におけるトップのリーダーは誰か?
  • どの組織が業界を引き立てるか規制するのか?
  • これらの組織と関係を持つメリット何か?
  • 誰が広告リリースを作成しているのか、コンベンションに参加しているのか、販促資料を伝えているのか?
  • 製品とサービスの比較は何だ?
  • 適用可能な顧客満足度指標/ベンチマーキングのプロジェクトは何か?
  • サプライヤー、プラクティス、設備、各会社によって使用されるツールは何か?また、なぜそれらを使用するのか?
  • 天候、政治的不安あるいは自然災害による潜在的影響は何か?
  • 対象のカスタマーは誰か?また、彼らは競争相手に対しても同じか?
  • 何が生産、マーケティングおよび販売の季節サイクルに影響を与えるのか?
  • それはスタッフに影響を与えるかそれともプロセスを変更する必要があるのか?

 .3 有効性の判断基準

有効な業界知識の手段は次のものを含む:

  • エンタープライズおよびより広い業界内の両方の活動に気づいている
  • 主な競争者およびパートナーについての知識を持っている
  • 業界を形成する重要な傾向を識別する能力
  • 最大の顧客層と親しいこと
  • 共通の製品および製品タイプについての知識を持っていること
  • 業界に関する消息筋と関連する同業組合あるいはジャーナルを含む知識が豊富なこと
  • 業界固有の用語、標準、プロセスおよび方法論、についての理解
  • 業界における規制環境についての理解

 

9.3.5 方法論の知識

.1 目的

  • ビジネスアナリストが組織によって用いられる方法論を理解すれば、ビジネスアナリシスアプローチを開発する際に、使用されるコンテキスト、依存性、機会および制約に関する情報が得られる。

 .2 概説

  • 方法論はタイミング(大きなステップあるいは小さなインクリメント)、アプローチ、関係者の役割、受容されたリスク水準および他の様相を、変革イニシアチブがどのようにアプローチし管理するのかを決定する。組織は、文化、成熟度、適応性、リスク、不確実性およびガバナンスの様々なレベルに適合する自分達の方法論を採用する、もしくは作成する。
  •  様々な方法論に関する知識は、ビジネスアナリストが新しい環境に対し、速く適合し、実践することを可能にする。

 .3 有効性の判断基準

方法論の知識の判断基準は以下の通り:

  • 方法論の変革に適応させる能力
  • 新しい方法論を使用または学習する意欲
  • ビジネスアナリシスのタスクとテクニックを最新の方法論に成功裏に統合している
  • 方法論によって規定された用語、ツール、テクニックの熟知
  • 方法論によって規定された活動内の多面的役割を演じる能力