どこでもビジネスアナリシス (43)

43 人によって表現は異なる

43.1 同じことでも人によって表現は異なる

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十人十色といわれる通り、人はそれぞれ異なった意見を持っていますが、同じことを考えていてもその表現が人によって異なることは良く起こります。 大議論をした結果、同じことを主張していたということが判明することも珍しくありません。 人それぞれ自分の置かれている環境や日常用いている考え方や表現によって主張し、議論しますので異なる環境にいる人達との議論では同じであることを理解するのに時間がかかることがあります。 同じ組織の内部にいる人どうしでも理解の異なることがありますから、異なる組織間ではなおさらです。 危険なのは、異なる意見であるのに同じことだと理解してしまう誤解です。我々はこのような複雑な環境の中で仕事をしていますから、相互の理解に誤りを生じたまま要求を満たさないシステムを作ってしまう原因にもなります。

43.2 相手は何が言いたいのかを理解する

ビジネスアナリシスでは「引き出し」という言葉が頻繁に利用されますがこれは英語のelicitation を訳したもので適切な日本語がありません。相手の言うことをよく聴いて何が言いたいのかを理解することであると解釈すればよいでしょう。 単に聴いただけではダメでその内容を理解して真に訴えたいことを理解することが必要です。関係する人たちが多い場合にはいろいろな背景をもった人々から多くの情報を捉えなければなりません。その場面で発言された内容を正しく捉えることが大切であり、内容の良否の判断ではありません。現場に近いほど自分たちのことばを用いて表現するでしょう。理解を深めるためには現場のことばを学ばなければなりません。現場の専門用語を使うかもしれません。真実を理解するためには現場を理解しなければなりません。言葉だけではなく現場の状況や現場の文化を理解する必要があるかもしれません。

43.3 相手の主張の本質を掴む

意思や意見は言葉で表現されます。同じ言葉も発言者によってその真の意味が異なることがあります。人によって言葉の重みが異なります。言語によってはイエスとノーの意味が逆になることすらあります。ビジネス上の会話においては、相手が話したことの真の意味を捉えることが大切です。もちろん発言者は誤解を避けるために明確に表現する事を心がけなければなりません。発言者の意図することを理解する能力を養うことが必要ですが、多くの場面を経験することがその能力の成長を促します。システム開発における要求を書くのは依頼者であるその利用者です。利用者は要求作成の専門家ではありませんから彼ら自身のことばで表現することがあります。開発者はその要求の真の意味を理解しなければ利用者が満足するシステムを作ることはできません。自分勝手な理解を避けなければなりません。わかるまで徹底して質問し、議論し、確認することが必要です。表面的なことばではなく、相手の主張の本質を掴むことが求められます。

43.4 理解はビジネスアナリシスの原点

自分のことばと相手のことばが一致した時に理解が成り立ちます。複雑な論理においても同じです。相手の意見を理解して自分のことばで表現して、それを相手に示して理解されたときに本当の理解が成り立ちます。相手の理解を誘導すると言っても良いでしょう。ビジネスにおける行動の原点は理解から始まります。出発点が間違っていたならば、その先は異なる方向へどんどん行ってしまいます。人と人との理解のほかに、理解とはいろいろな状態があります。組織現状の理解、問題点の理解、組織能力の理解、相互の意見が異なっているという理解も必要です。ビジネスアナリシスはそこから始まります。理解はビジネスアナリシスの原点です。