第7回: 【ビジネスアナリシス計画】
いよいよ最終回です。ビジネスアナリシス実務ガイドのドメイン「ビジネスアナリシス計画」を解説します。
BABOKでは知識エリア「ビジネスアナリシス計画とモニタリング」が対応します。
恒例となりますが、BABOK V2の知識エリアをご覧ください。
BABOK V2 知識エリア: ビジネスアナリシスの計画とモニタリング
この知識エリアには次の6つのタスクがあります。
2.1 ビジネスアナリシスへのアプローチを計画する
2.2 ステークホルダーの分析を主導する
2.3 ビジネスアナリシスのアクティビティを計画する
2.4 ビジネスアナリシスのコミュニケーションを計画する
2.5 要求マネジメントプロセスを計画する
2.6 ビジネスアナリシスのパフォーマンスを管理する
各々のタスクの概要を解説します。
2.1 ビジネスアナリシスへのアプローチを計画する
ビジネスアナリシス活動の全体像を規定します。キックオフまでに決めておくべきことは何でしょうか。
要素は次のとおりです。
- ビジネスアナリシスの作業のタイミング
- ビジネスアナリシスの成果物の公式度と詳細度のレベル
- 要求の優先順位付け
- 変更管理
- ビジネスアナリシス計画プロセス
- ステークホルダーとのコミュニケーション
- 要求アナリシスと要求マネジメントのツール
- プロジェクトの複雑性
2.2 ステークホルダーの分析を主導する
どのようなステークホルダーがいるのかを分析し、対策を講じます。
要素は次の通りです。
- ステークホルダーの識別
- ステークホルダーグループの複雑性
- ステークホルダーの態度と影響力
- ビジネスアナリシスの作業に対するステークホルダーの権限レベル
このタスクは計画ではなく、実行するタスクです。重要なことはイニシアチブの期間中、継続的に実行することです。一度だけ実行すればよいというものではありません。
2.3 ビジネスアナリシスのアクティビティを計画する
ビジネスアナリシスの活動全体を規定します。
他の知識エリアのすべてのタスクの暗黙のインプットとなります。
要素は次の通りです。
- ステークホルダーの地理的分布
- プロジェクトとイニシアチブの種類
- ビジネスアナリシスの成果物
- ビジネスアナリシスのアクティビティの決定
2.4 ビジネスアナリシスのコミュニケーションを計画する
ビジネスアナリシスの成果物(RFP、BRD、要求仕様書など、)を何時、誰に、どのように伝達するべきかを計画します。
要素は次の通りです。
- ステークホルダーの地理的分布
- 文化
- プロジェクトの種類
- コミュニケーションの頻度
- コミュニケーションの公式度
2.5 要求マネジメントプロセスを計画する
引き出してまとめた要求をどのように管理するのかを計画します。
要素は次の通りです。
- リポジトリ
- トレーサビリティ
- 要求属性の選択
- 要求の優先順位付けプロセス
- 変更管理
- 要求マネジメントプロセスのテーラリング
2.6 ビジネスアナリシスのパフォーマンスを管理する
ビジネスアナリストの活動計画のPDCAを回します。計画したタスクを実行した後のチェックとアクションに相当します。
要素は次の通りです。
- パフォーマンスのメジャー
- パフォーマンスの報告
- 予防処置と是正処置
続いてPMIのビジネスアナリシス実務ガイドをご覧ください。
PMI ビジネスアナリシス: 実務ガイド: ビジネスアナリシス計画
次の3つのタスク(らしいものもの)があります。
- 3.3 ステークホルダー分析を実施するまたは改善する
- 3.4 ビジネスアナリシス計画書を作成する
- 3.5 ビジネスアナリシス作業を計画する
ビジネスアナリシス計画はあるのですが、活動をモニターしレビューするタスクがありません。知識体系でないのでモレがありますが我慢するしかありません。
このドメインの特徴はプロジェクトマネジャーとビジネスアナリストの協働ポイントが大変多いことです。なんと合計17個もあります。それを見るだけでも、この書籍のメッセージが伝わってきます。特に計画時においてビジネスアナリストとプロジェクトマネジャーは緊密に連携することを強く薦めています。ウォーターフォールの場合はさらに重要になります。
各々のタスクの主な協働ポイントを紹介します。
3.3 ステークホルダー分析を実施するまたは改善する
このタスクはBABOKの「ステークホルダーの分析を主導する」タスクと同等と考えて差し支えありません。計画ではなく、実行系のタスクです。このタスクにも2つの協働ポイントがあります。
協働ポイント
- プロジェクト・マネジャーとビジネスアナリストが、ステークホルダー分析においてどのように協働し、共に作業するかは組織により異なる。しかし、作業の重複を避けるために、両者がプロジェクト・チームやプロダクト・チームと協力し合って作業すれば、より効率がよくなる。
協働ポイント
- プロジェクト・マネジャーは、ステークホルダーとのコラボレーションとコミュニケーションを含むプロジェクト活動に十分な時間を割くため、プロジェクトの複雑性のレベルを理解することに関心を持つ。
3.4 ビジネスアナリシス計画書を作成する
このタスクの内容を見ると、実に多くの事項をビジネスアナリシス計画書に記述することが分かります。具体的な内容がよくまとまっています。その中は、以下の通りです。
- 引き出しの計画
- アナリシスの計画
- 優先順位付けプロセスの定義
- トレーサビリティアプローチの定義
- コミュニケーション・アプローチの定義
- 意思決定プロセスの定義
- 要求事項の検証プロセスと妥当性確認プロセスの定義
- 要求事項変更プロセスの定義
- ソリューション評価プロセスの定義
このタスクの協働ポイントのいくつかを紹介します。
協働ポイント
- ビジネスアナリストは、賛同を得るために、主要なステークホルダーと協働しながらビジネスアナリシス計画書を作成すべきである。
協働ポイント
- ビジネスアナリシス計画書は、要求事項マネジメント計画書と一緒に使うことで効果を発揮する。
協働ポイント
- プロジェクト・マネジャーとビジネスアナリストはそれぞれ教訓セッションを実施する。すなわち、プロジェクト・マネジャーは完了したプロジェクト活動に関するフィードバックを得る。そしてビジネスアナリストは完了したビジネスアナリシス作業に焦点を当てる。
協働ポイント
- トレーサビリティの数が適切だとプロジェクト・リスクを減らすのに役立つが、あまり多くのことをトレースすると、プロジェクト・チームの作業を阻害し、コストとスケジュールに影響を与える。
3.5 ビジネスアナリシス作業を計画する
3.4で作成した計画書に基づいた作業(アクティビティ)を計画します。
PMBOKでの「タイムマネジメント」と思えば良いと思います。
このタスクにもいくつかの協働ポイントがあります。
協働ポイント
- プロジェクトのために作成されるビジネスアナリシス成果物は、ビジネスアナリストが決定するが、単独では判断しない。ビジネスアナリストは、スポンサー、プロジェクト・マネジャー、および主要なステークホルダーに意見を求め、ステークホルダーの期待が満たされることを確実にする。”ビジネスアナリストは、プロジェクト・マネジャーと密接に作業すべきである。なぜなら、成果物はプロジェクト・スケジュールに影響を与え、下流のプロジェクト作業への依存関係が発生する可能性があるためである。“
協働ポイント
- ビジネスアナリストとプロジェクト・マネジャーは、主要なステークホルダーがプロジェクトに対して持つ役割と責任について完全に理解し、合意することを確実にするために利害を共有すべきである。プロジェクト・マネジャーがプロジェクトを通してステークホルダーの期待をマネジメントする一方、ビジネスアナリストは、ビジネスアナリシス活動中、ステークホルダーの期待をマネジメントする。ステークホルダーが期待通りに関わることが確実となるように、両者は一緒に作業する機会をもつ。
合計7回にわたり、PMI発行の「実務者のためのビジネスアナリシス:実務ガイド」の解説をしてまいりました。
読者の皆様の感想など聞かせていただけると嬉しいところです。
よろしくお願いします。