【意思決定マネジメント】(1)

0 初めに:

ビジネスは意思決定の連続だと言って過言ではないと思います。ではどれだけ正しく、効果的に意思決定されているでしょうか。意思決定にも3つのレベルがあります。それは戦略的な意思決定、戦術的な意思決定、業務上の意思決定です。

戦略的な意思決定は次のようなものです。

  • 経営陣によりなされる
  • 非定型で頻繁に行われるものではない
  • 海外進出、企業買収、新規事業参入など

 戦術的な意思決定は、

  • ミドルマネジャーによりなされる
  • かなり頻繁に行われる
  • 組織変更、製品計画など

 業務上の意思決定は、

  • 現場の業務によってなされる
  • 定型的で毎日数多く繰り返される
  • ローン審査、資産のリスク分類、保険金請求の査定、建築申請の許可など

戦略上や戦術上の意思決定に目を向けがちですが、日々の業務上の意思決定は極めて重要です。人による意思決定が正しく間違いなくできているでしょうか。ビジネス環境の変化に応じて頻繁に意思決定基準(ビジネスルール)を変えることができているでしょうか。頻繁に変えた意思決定基準において人による意思決定が正しく間違いなく実行されているでしょうか。
自動化された意思決定は最適な意思決定基準(ビジネスルール)になっているでしょうか。
ビッグデータに応じた正しい基準(ビジネスルール)を俊敏に作成できているでしょうか。環境変化に対応して、競争相手より俊敏にかつきめ細やかな意思決定基準(ビジネスルール)に変更できているでしょうか。このように意思決定を効果的にマネジメントすることが企業の業績改善に貢献することが理解できると思います。

GEではジェットエンジンの製造販売という従来のビジネスモデルから、IoT(エンジンにつけたセンサー)からのデータを自動的に取り込むことによりジェットエンジンの出力をサービスとして提供したり、燃料節約のための最適航路を提案するというビジネスモデルを採用しています。IoTから自動的にデータが届き、最適航路を提案するまでにどれだけの業務上の意思決定が存在するのでしょうか。その意思決定の根拠は何で、どれだけ正しい意思決定ができていると確証できるのでしょうか。さらに、意思決定の自動化のみならずビジネスプロセスと協働し、業務そのもの(課金や支払い)まで自動化されることが、今後のデジタルビジネスの実現に不可欠なことが認識される必要があるようです。

この連載では「意思決定マネジメント」について考えていきます。

「意思決定マネジメント」で扱う主なテーマは次の通りです。

  1. 定義と序論
  2. 意思決定中心のアプローチ
  3. 意思決定マネジメントの価値
  4. 意思決定モデリングの価値

1.定義と序論: 意思決定(Decision)とは

英語の「Decision」という言葉には一般に2つの意味があります。Decisionは複数の可能な選択肢の中から、選択する行為(決定すること)を示すこともあれば、Decisionは選択された選択肢そのもの(決定事項)を示すこともあります。

DMN1_2017年1月31日

これから解説する「Decision」はこの前者の意味で用います。そのため、日本語では「決定事項」と区別するために「意思決定」という言い方をします。すなわち「意思決定(Decision)」は、アウトプットがどのようにインプットから決定されるかを定義するロジックを使用して、多くのインプット値から、アウトプット値(選ばれる選択肢)を決定する行為のことです。意思決定ロジックは、ビジネス・ルール、アナリティカル・モデル、または他の方法でビジネス・ノウハウをひとまとめにした「ビジネス知識モデル」として表されることがあります。すべての意思決定モデルが作成されている基本的な構造は、左のように表記されます。

図1 意思決定モデルの基本要素 (OMG DMN1.1 より)

(図のクリックで拡大表示)

 

IGOEモデル_プロセス

左の図はプロセスモデルとして有名なIGOEモデルです。

プロセスの基本的な4つの要素

  • インプット:  プロセスが変換する物や情報です。
  • ガイド:   プロセスの振る舞いを制限するポリシーやルール
  • アウトプット: プロセスが生成する物や情報
  • イネーブラ: プロセスが使用するリソース、人、ソフトウェアなど

4つの頭文字を取り、IGOE(Input/Guide/Output/Enabler)モデルと言います。

(図のクリックで拡大表示)

意思決定モデルとIGOEモデル似ていませんか。

意思決定モデルとプロセス(IGOEモデル)の比較

意思決定モデル

IGOEモデル

入力データ

インプット(プロセスが変換する物や情報)

ビジネス知識モデル(ビジネスルールなど)

ガイド(プロセスの振る舞いを制限するポリシーやルール)

意思決定

プロセス

結果(選ばれた選択肢)

アウトプット(プロセスが生成する物や情報)

人またはソフトウェア

イネーブラ(プロセスが使用するリソース、人、ソフトウェア)

2つの図を上下反転して見るとそっくりではないでしょうか。イネーブラは「意思決定する人またはソフトウェア」と考えることができますからプロセスのIGOEモデルに酷似しています。

意思決定を「複数の可能な選択肢の中から選択する行為」と定義すれば、意思決定はある種のプロセスと考えることができそうです。一般的なプロセスでは、インプットがアウトプットに変換されるのですが、「意思決定」は「複数の可能な選択肢」の中から、「選択肢」を選ぶ行為です。「複数の可能な選択肢」は「Yes/No」、「ランクA、ランクB、ランクC」、「受入れ/却下/保留」などがあります。さらに「入力データ」そのものが「複数の可能な選択肢」のこともあります。

 「意思決定」がプロセスの一種であることがこれから意思決定マネジメント(特に自動化された)を行う上で極めて重要な要素になるような気がします。