ご紹介:APQC(米国生産性品質協会)のPCF(プロセス分類フレームワーク)

APQCのProcess Classification Framework(プロセス分類フレームワーク)とは

業務分析で役に立つプロセス参照モデルとしてAPQCのPCFをご紹介します。

全体像です。

PCF全体_2021年5月28日

 

 

上図は損害保険用(他の業種もあります)のPCFです。
合計13の項目があります。マイケルポーターのバリューチェーン・モデルを思い出してください。

1から6まではオペレーションプロセスですが、バリューチェーンモデルの主要アクティビティに相当します。

  • 1 ビジョンと戦略を策定する
  • 2 製品とサービスを開発し管理する
  • 3 製品とサービスをマーケティングし販売する
  • 4 物理的製品を提供する
  • 5 サービススを提供する
  • 6 カスタマーサービスを管理する

7から13は管理と支援のプロセスですが、バリューチェーン・モデルの支援アクティビティに相当します。

  • 7 人財を開発し管理する
  • 8 情報技術を管理する
  • 9 財源を管理する
  • 10 資産を取得し、構築し、管理する
  • 11 エンタープライズのリスク、コンプライアンス、修復、レジリエンスを管理する
  • 12 外部との関係を管理する
  • 13 ビジネス・ケイパビリティを開発し管理する

原文をご覧ください。

PCF2

 

 

プロセス的にはこの13の項目が階層構造の最上位でカテゴリーと呼びます。

階層構造が次の図です。

プロセス階層構造

PCF3

 

具体的には以下の通りです。

  • レベル1:カテゴリー
  • レベル2:プロセスグループ
  • レベル3:プロセス
  • レベル4:アクティビティ
  • レベル5:タスク

具体例をご覧ください。

プロセスレベル1~レベル4

 

PCF4PCF5

 

 

レベル4,レベル5になると、かなり細かいプロセス(タスク)であることが分かります。レベル5までのプロセスを合計すると1500個ぐらいあります。これだけ明確な階層のプロセスが定義されているとどうでしょうか。同じ業界なら別の企業へ行っても仕事ができますね(人材の流動化)。

階層構造化されたプロセス標準のメリット

  • 上位の経営課題を下位のプロセスに分解できますから、課題に直結したプロセスの改善(改革)が明確になります。ですから対策と効果が直接リンクされることになります。そのためにはより上位レベルで課題を設定することが重要です。
  •  BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)も容易になりますね。BPRとはレベル3またはレベル4を改革することに相当すると言えるでしょう。
  • またアウトソースもしやすくなります。こちらもレベル3やレベル4のプロセスをそっくりそのまま外部に委託することです。委託先(アウトソース先)も同じプロセス標準を使用していればなおさら容易です。使用していなくても公表されている標準プロセスですから受けて側も既知の仕事の可能性が高いと思います。

一方、現場でのプロセス改善はレベル5以下での作業が対象です。ここは標準化されていませんから、自由にプロセスを定義し改善することが可能です。しかし、ここで気を付けなければいけないことは例えばレベル6プロセスをいくら改善したとしても経営課題に結び付くとは限らないことです。

日本のプロセスの問題点

いま日本ではRPAが大流行りのようです。RPAは人の作業の一部を代替してくれます。プロセス階層ではレベル7かレベル8になるでしょう。このレベルで効果を出すためにはその上位、レベル4やレベル5が標準化されている必要があります。そうでないと同じ仕事にもかかわらず、作業者一人一人が異なるプロセスを実行していることになり、ロボットも人の数だけ必要になってしまいます。その作業者は仕事が楽になった(残業時間が削減された)としてもロボットのコストが上乗せされるだけで組織としてのメリットが出しづらくなりそうです。より正しい使い方は上位プロセス(レベル4,5)を標準化し、人の作業(レベル6か7)まで標準化しておくことです。そうすればRPAの作業も標準化されますから、10人~20人の作業がロボット1台のみで代替えできることになり、コストメリットが大きくできるのではないでしょうか。今の日本のRPAの使い方の多くは、標準化されていない固有のプロセスを代替えするのみで、真のプロセス改善には結びついていないかもしれません。RPAベンダーにとってみれば大きなビジネスかもしれませんが、利用者(発注者側)は無駄な使い方をしているのかもしれません。

コアコンピテンスの確立 は

このようにプロセス標準が進むと一体どこで他社と差異化するのかという疑問がわいてきます。でもプロセスをよく見ると、製品やサービスの中身には何も触れていないことが分かります。

例えば、カテゴリー5の下のプロセスです。(日本語化してありますが)

  • 5.3  顧客にサービスを提供する
  • 5.3.1 サービス提供を開始する
  • 5.3.1.1 契約と合意された条件を確認する
  • 5.3.1.2 顧客の要件を理解し、洗練されたアプローチを定義する
  • 5.3.1.3 プロジェクト計画を変更/改訂し、承認する
  • 5.3.1.4 顧客のビジネス目標を確認する
  • 5.3.1.5 環境への準備を確認する
  • 5.3.1.6 リソースを特定し、選択し、割り当てる

レベル4までありますが、どこにも製品やサービスの中身には触れていません。どんなビジネスでも上記のようなプロセスはあるわけです(しかもレベル4まで)。ビジネスの差異化はレベル5以下、もしくは別建てで定義すればよいわけです。

プロダクトも同様です。さらにビジネスルールは組織に固有なものが必要で、それらが他社との差異化につなげられるわけです。例えばスマホのプロバイダー契約のメニューの目まぐるしい変化を見ればわかると思います。○○割、xx割などが目まぐるしく変わりますね。ですけど契約プロセスは何も変わっていません。しかし競合優位性は大きく変化します。

プロセスの標準化はビジネスの競合優位性の妨げにはならないことが分かります。

 

APQCのWebページのURLです。

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