ECBA学習の手引き(4)

要求のライフサイクルマネジメント

要求のライフサイクルの流れは次のとおりです:

  • ビジネス・ニーズを要求として表現するところから始まり。
  • ソリューションの開発作業の間、ライフサイクルは続く。
  • ソリューションとそれを表現する要求が廃棄された時点で終了する。

ソリューションが実装されたからといって、要求の管理がそこで終わるわけではありません。要求を適切に管理すれば、ソリューションが存続している間ずっと、要求は価値を提供し続けます。
私たちは要求を管理することはプロジェクトの中だけだと思っているかもしれません。ここでもまさに「プロジェクトの境界を越えるビジネスアナリシス」ということです。

 この知識エリアには次の5つのタスクがあります。

  1. 要求をトレースする
  2. 要求を維持する
  3. 要求に優先順位を付ける」
  4. 要求変更を評価する
  5. 要求を承認する

要求をトレースする

このタスクの目的は、異なるレベルにある要求とデザインが互いに整合していることを確認し、関連している要求のあるレベルで生じる変更が他のレベルの要求やデザインに与える影響をマネジメントすることです。

学習目標は次の3つです。

  1. 要求をトレースする際に、価値や関係性を考慮することを理解している。
  2. トレーサビリティを効果的に管理するために、追跡すべき関係を特定することを理解している。
  3. 使用する適切なトレーサビリティリポジトリをルールに従い決定することができる。

1.要求をトレースする際に、価値や関係性を考慮することを理解している。

公式度が重要です。リンク(トレース)によってもたらされる価値や、生み出される具体的な関係の性質と用途についても考慮します。
要求のトレースに要する工数は、要求の個数が増えるにつれ、あるいは公式度合いが高くなるにつれ、急激に増えますから要注意です。

 2.トレーサビリティを効果的に管理するために、追跡すべき関係を特定することを理解している。

次の追跡するべき関係の種類を理解しておきましょう

  • 派生
  • 依存
  • 充足

3.使用する適切なトレーサビリティリポジトリをルールに従い決定することができる。

トレーサビリティ用の要求管理ツールを使用することができます。

このタスクで重要なのは「ガイドラインとツール」にある次の2つです。

  • 要求管理ツール/リポジトリ(下図を参照)
  • 情報マネジメント・アプローチ

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 情報マネジメント・アプローチは知識エリア「計画とモニタリング」のアウトプットの一つです。「計画とモニタリング」で解説しますので少しお待ちください。

要求を維持する

このタスクの目的は、要求のライフサイクル全体を通じ、チェンジの間およびチェンジ以後にも要求の精度と一貫性を維持すること、他のソリューションでの要求の再利用を支援することです。

学習目標は次の3つです。

  1. 要求情報やデザイン情報をどのように管理するのが最適かを判断するための基礎知識がある。
  2. 属性をどのように管理するのが最適かを決定するための基礎知識がある。
  3. 長期的に再利用可能な要求を管理するための基礎知識がある。

すべて「基礎知識がある」なので、知っていればよい程度です。暗記で

 1.要求情報やデザイン情報をどのように管理するのが最適かを判断するための基礎知識がある。

  • 変更が承認された後にも正確性と最新性が確保されるように要求を管理します。BAの責任です。

2.属性をどのように管理するのが最適かを決定するための基礎知識がある。

  • 要求を引き出している間、ビジネスアナリストは要求属性を引き出します。

3.長期的に再利用可能な要求を管理するための基礎知識がある。

  • 組織が長期にわたって使用する可能性のある要求を特定し、わかりやすい名前を付けて定義し、 他のステークホルダーが容易に検索できるような方式で保管します。

 これら3つのすべての作業、BAは要求管理ツールを使用して行います。ECBAは知識だけですのでこのような作業があるということを知っておいてください。

要求に優先順位をつける

このタスクの目的は、相対的な重要度に応じて要求にランクを付けることです。

 学習目標は次の3つです。

  1. 要求の優先順位付けの根拠を適切に判断することを理解している。
  2. 優先順位付けの課題を通じてステークホルダーを導くための基礎知識がある。
  3. 新しい情報が入手可能になったときに優先順位をつけるための基礎知識がある。

最初の学習目標だけ「理解」で、残り2つは「基礎知識」ですね。このタスクでも大事なのは次のガイドラインです。知識エリア「計画とモニタリング」のアウトプットの一つです。

  • BAガバナンス・アプローチ

1.要求の優先順位付けの根拠を適切に判断することを理解している。

  • 下記のような優先順位づけのやり方(基礎)は計画とモニタリングの「BAガバナンス・アプローチ」で決めておきます。
    このタスクはその計画に則って実行(優先順位をつける)するタスクです。
  • 便益:/ペナルティ/コスト/リスク/依存性/時間依存性/安定性/規制やポリシーの遵守

2.優先順位付けの課題を通じてステークホルダーを導くための基礎知識がある。

  • 個々のステークホルダーは同じものに 異なった価値を見出しますのでステークホルダー間に対立が生じることがあります。

3.新しい情報が入手可能になったときに優先順位をつけるための基礎知識がある。

  • コンテキストに新しい展開があったり、より詳細な情報が利用可能になったりすると、優先順位も 変化することがあります。優先順位付けは継続的なプロセスです。

テクニック:優先順位付け

 

BABOK_V3_優先順位付けテクニックう_2016年10月1日

 

 

優先順位付けのアプローチは、以下の4種類があります。

  • グループ化:BA 情報を高、中、低の優先度で分類する
  • ランク付け:BA 情報を重要度の順に並べる
  • 時間制限/予算制限:BA 情報を固定のリソース(時間や予算)の割り当てに基づいて優先順位付けする
  • 交渉:ステークホルダーの合意により要求に優先順位を付ける

 このタスクに関与する重要なステークホルダー

  • 顧客:顧客またはエンド・ユーザーにとって優先順位の付いた要求が価値をもたらすことを、顧客は検証する。顧客はまた、相対的な価値に基づいて優先順位付けを変更するように交渉できる。
  • 実装の専門家:技術的な依存性に関係するインプットを提供する。技術的制約に基づいて優先順位付けを変更するように交渉することがある。
  • プロジェクト・マネジャー:優先順位付けを、プロジェクト計画のインプット、および要求からリリースの割り当てへのインプットとして使用する。

 

このタスクでも重要な「ガイドラインとツール」にある次の2つです。

  • 要求管理ツール/リポジトリ
  • ガバナンス・アプローチ

 

要求変更を評価する

このタスクの目的は、要求やデザインに対して提案された変更の意味することを評価することです。

 学習目標は3つです。

  1. 評価の公式度を理解している。
  2. 必要に応じて影響分析活動を完了するための基礎知識がある。
  3. 影響を解決する活動を指導するための基礎知識がある。

1.評価の公式度を理解している。

利用できる情報や、変更の明白な重要性、ガバナンス・プロセスに基づいて、評価の公式度を決定する。

  • 予測型:公式度の高い評価
  • 適応型:高い公式度は求められない

 2.必要に応じて影響分析活動を完了するための基礎知識がある。

トレーサビリティは影響評価を行うときの 有効なツールです。

 3.影響を解決する活動を指導するための基礎知識がある。

変更分析 の結果、明らかになったすべての影響と解決方法は文書化し、すべてのステークホルダーに伝達します。この伝達は要求管理ツールで行うの一般的です。

  このタスクに関与する重要なステークホルダー

  • プロジェクト・マネジャー:要求変更の評価をレビューし、ソリューションを問題なく実装するには
    プロジェクト作業の追加が必要になるかどうかを判断する。

このタスクでも重要な「ガイドラインとツール」です。

  • ガバナンス・アプローチ

 

 

要求を承認する

このタスクの目的は、ビジネスアナリシス作業を継続するため、またはソリューションの構築を進めるため、あるいはその両方のために、要求とデザインについて合意と承認を得ることです。

 学習目標は次の4つです。

  1. ステークホルダーの役割と権限レベルを理解している。
  2. 衝突をマネジメントし、問題を解決することの必要性を理解している。
  3. ビジネスアナリシスに関する重要な情報について、適切な方法を用いてコンセンサスを得ることを理解している。
  4. ルールに従い承認決定を追跡し伝達することができる。

 

 1.ステークホルダーの役割と権限レベルを理解している。

ビジネスアナリスト は、ステークホルダーの承認を得る責任があり、ステークホルダーの 誰が意思決定の責任を持ち、誰がサインオフの権限を有しているのかを理解すること。

2.衝突をマネジメントし、問題を解決することの必要性を理解している。

衝突している立場のステークホルダー同 士でコミュニケーションが図られるように促し、各グループが他者のニーズへの理解を深められるよ うにする

3.ビジネスアナリシスに関する重要な情報について、適切な方法を用いてコンセンサスを得ることを理解している。

ビジネスアナリストは、承認の権限を持つステークホルダーが要求を確実に理解して受け取って くれるようにする責任がある

4.ルールに従い承認決定を追跡し伝達することができる。

承認の決定を記録する。この記録は要求の管理や追跡のツールで行います。

このタスクでも重要な「ガイドラインとツール」にある次の2つです。

  • 要求管理ツール/リポジトリ
  • ガバナンス・アプローチ

 

この知識エリアの5つのタスクと「計画とモニタリング」のアウトプット、および「要求管理ツール・リポジトリ」との関係です。

BABOK_V3_計画タスクとの関係_2016年10月1日

 

実行系のタスクと計画プロセスのアウトプットとの関係です。この関係を理解しておくことがこの知識エリアにとって最も重要です。