BABOK V3 パブリックレビュー版 まとめ (1)

BABOK Ver.3 まとめ (その1)

今週は今までのV3解説を振り返り、全体像をもう一度わかりやすく見直したいと思います。細かな各論は正式版が出版されるまで待ちましょう。

BABOK_V3_Profession_2014年11月30日

BABOKガイドのバージョン2では、「BABOKガイドの目的は、ビジネスアナリシスという専門的職業性を定義すること」、と明記しています。

そして、プロジェクトにおいてより良い結果をもたらすように、その役割の理解を推し進めてきました。その結果、ビジネスアナリシスは専門職として認知されるようになりました。

しかしながら、プロジェクトを成功させるだけではビジネスは変わらない(価値があるとは限らない)こともわかってきました。プロジェクトの成功(品質、コスト、納期を守ること)とビジネスの成功は必ずしも一致するものではなかったのです。

ステークホルダーから出てきた要求をまとめてソリューションを構築しても、ビジネス価値の実現に必ずしも結びつかないのです。本当に価値をもたらす変革やイノベーションはステークホルダー要求以前の要望やニーズにまでさかのぼって発掘する必要があったのです。例えば、iPhone、iPad、フェースブック、最近のイノベーションはその元は潜在ニーズをいかに顕在化できるか、という事に尽きると思います。

BABOK_V3_Business_Value_2014年11月30日

 

今や、ビジネスアナリシスに求められているのは、ステークホルダー要求にフォーカスすることのみならず、そのおおもとのアイデア(潜在ニーズ)をいかに発掘するかという事です。重要なキーコンセプトが「要求」ではなく「ニーズ」に変わったことに注目してください。

上図のように「アイデア創出」もビジネスアナリシス活動の中で扱います。どこかにアイデアがあり、そのあとの要求をまとめるのではなく、アイデアそのものをいかに創出させるかを考えた引き出し活動(計画されない引き出し)まで行う必要があります。

この点については、V3の新しい知識エリア「引き出しとコラボレーション」を解説した下記URLのWebページをご覧ください。

URL: http://kbmanagement.biz/?p=1873

もう一つ大きな違いは、ソリューションの運用です。実装した後のソリューションの運用(使用時)における実際の価値を確実に実現することまで求められるようになったという事です。ソリューションが構築され、妥当性が確認(ユーザーに受け入れ)されればビジネスアナリシストの仕事が終わるわけではありません。実際の運用時におけるビジネス価値の実現にまで責任を持たなければいけません。そのため知識エリア「ソリューション評価」が大幅に充実しました。

知識エリア「ソリューション評価」を解説した下記URLのWebページをご覧ください。

URL: http://kbmanagement.biz/?p=2011

 

BABOK_V3_BA_Change_2014年11月30日

単にプロジェクトのデリバリをサポートするという役割から大きく変革してきているのです。一言で言うと、「戦術的なプロジェクトのデリバリのサポートから戦略的なビジネス価値の実現にシフトする」という事になります。

 

ここで、ビジネスアナリシスの定義の変遷をご覧ください。

【BABOK V2での定義】

「ビジネスアナリシスは、タスクとテクニックの集まりである。組織の構造とポリシーおよび業務運用についての理解を深め、組織の目的の達成のために役立つソリューションを推進するために、ステークホルダー間の橋渡しとなるタスクとテクニックをまとめて、ビジネスアナリシスと呼ぶ。」(BABOKガイドバージョン2日本語版)これはバージョン1.6から踏襲されたもので、10年以上前から引き継いでいます。ビジネスアナリシスは「経営とITとの橋渡し役」と日本のメディアで言われていたものです。これが間違いと言うわけではありませんが、時代とともにビジネスアナリシスの考え方も進化してきました。

バージョン2ではさらに「ビジネスアナリシスに不可欠なことは組織が目的を遂行するための機能を理解すること、および社外のステークホルダーにプロダクトやサービスを提供するために備えるべき能力(capability)を定義することである。...」と追加されてきました。バージョンがアップすればその定義も徐々に変わってきています。これは時代の変化を反映したもので、最近のITの使われ方が、まさにビジネス(製品やサービス)のフロントに浸透していることの表れといえます。スマホ、電気自動車、スマートXXなど、製品・サービスそのものにITが組み込まれていることを象徴しているようです。

新しいVer.3の定義は次の通りです。

【BABOK V3での定義】

「ニーズを定義しステークホルダーに価値あるソリューションを推奨することにより、組織コンテキストにおける変革を可能にするプラクティス(清水訳)」

「ビジネスアナリシスは様々なイニシアチブで、エンタープライズのすべてのレベル、そして多様な適用分野(パースペクティブ:IT、BPM、ビジネスインテリジェンス、ビジネスアーキテクチャ、アジャイル)において実践される」

「ビジネスアナリシスはプロジェクトだけでなく、エンタープライズでの改革や継続的改善によっても生じる。ビジネスアナリシスはトップレベルの戦略から非常に小さな変更まで、エンタープライズのすべてのレベルで生じる場合がある。そして、エンタープライズの現状を理解し、かつエンタープライズの将来の状態を定義するために行なうことができる」

BABOK_V3_BA_Layer_2014年11月30日

ビジネスアナリシスを階層構造的に考えてみるとわかりやすいと思います。

最上位階層(エンタープライズレベル)は経営や戦略です。ビジネス変革もこのレベルです。もっぱらCEO/CIO/CTOと呼ばれる組織の経営陣の意思決定を基に行われているものです。

真ん中のビジネスプロセスのレベルでは、組織が扱うプロダクトやサービス、ビジネスプロセス、ビジネスルールなどがあります。

下が実装レベルです。ここでは仕事を人的リソースで実行する部分(左側)とITを使って実行する部分からなります。人的リソースの部分では職務設計、教育カリキュラム、ナレッジマネジメント等が重要です。右側のITでは、アプリケーション開発やプロセスの自動化のためのBPMソフト、ERPパッケージ、ビジネスルール管理システム(BRMS)、データベースなどがあります。

BABOK_V3_BA_LayerV3_2014年11月30日

 

10年前のビジネスアナリシスは一番下のITシステムにフォーカスしていました(バージョン1.6の時代です)。それが「ステークホルダー間の橋渡し」としてのタスクとテクニックの集まり」だったわけです。

V2になり「プロダクトやサービスを提供する能力を定義する」が加わり、真中の階層(ビジネスプロセスレベル)に上がっていきました。V2で扱う変革(Change)はソリューションコンポーネントが集まって相互作用するシステムで、ソリューションコンポーネントとして、SWアプリケーション、Webサービス、ビジネスプロセス、ビジネスルール、ITアプリケーション、組織改正、アウトソーシング、インソーシング、職務の見直しなど、とあります。すなわち上図の真ん中の階層(ビジネスプロセスレベル)と下の階層(実装レベル)になります。

 

そして、最新のバージョン3においてはビジネスアナリシスは最上位の階層(エンタープライズレベル)の経営、戦略における変革(Change)までカバーするようになってきました。

経営戦略までカバーするようになったと言っても、すべてのビジネスアナリシスの活動がそうである必要はありません。「ビジネスアナリシスはトップレベルの戦略から非常に小さな変更まで、エンタープライズのすべてのレベルで生じる..」ということです。すなわち、戦略的なビジネスアナリシスもあれば、戦術的なビジネスアナリシスもあります。新製品により新市場を開拓しようとするビジネスアナリシスもあるわけです。またほんの数人で実践する業務プロセスの変更(ただしそれが戦略と結びついている場合)も対象です。

そして、それらの変革(Change)の結果のビジネス価値の実現にまで責任を持つのがBABOKバージョン3で定義する最新のビジネスアナリシスなのです。

知識エリア ストラテジーアナリシスの詳細については下記URLのWebページをご覧ください。

URL: http://kbmanagement.biz/?p=1956